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プロフィール
Author:まるねこ
社会人の女の人。
北の方出身、関東在住。
でっかい犬と太った猫がすき。
犬夜叉はココロのバイブルです!
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2010.11.18_04:18
とりあえず、UP!!
気がつけば10日も更新していなかった・・・・アワワワ;(-_-;)
「紅に眠る 12」
気になる方はどうぞ!
「紅に眠る 12」
初日の出を拝み、
雪源と蒼天のまぶしさに目を細め、
はしゃぎまわる子供たちに安堵し、
吐いたその息の白さと、風の冷たさが頬を紅くした。
梅の花の香りに来たる春を想い
咲いた桜の薄桃色の花弁の雨にまどろみ、
慈雨が誘う濃緑の薫風が夏を報せ、
濃紺の闇に漂う靄に、蛍の灯が尾をひいた。
紺碧の空にそびえるように入道雲がのぼり、蝉の音が耳に沁みるようだった。
いつしかその空には蜻蛉が舞い、
その色が茜に染まった。
地上が黄金の野原に姿を変え、
指先が悴みだすと、緋と紅、茜の絢爛なまでに色づいた木々たちは一斉にその衣を脱ぎ捨てていった。
眠ったように景色が静かになり、火鉢に起こしている炭が赤々と目立つ季節がこの年も巡ってきた。
「丹」を飲んでから一年以上が過ぎた。
りんは病を患っていることを思わず忘れてしまうくらい、かつてと同じように元気に過ごしていた。
罹り始めだったあの頃、母親と雪蓉と父である殺生丸の間の空気が重くなったことに表に出さずとも戸惑いがあった子供たちは、もうすっかりそのことが気にかからなくなっていた。
彼らは雪蓉が度々言う「城の中が騒がしい」という言葉のせいだろうと、そう思って疑わなくなっていた。
二日に一度は必ずこの家へ訪れる父親と言葉を交わすことを楽しみにしている。
りんもそうだ。たとえ短い時間でも起きているときに会えるのはとても嬉しかった。
りんを含め周りの者たちすべてが毎日が当り前に戻っていて、それを疑うことを忘れた頃だった。
小春日和のある午すぎ、
「りんさま、りんさま・・・」
りんは揺り起こされて初めてうたた寝していたことに気がついた。
「茅島さん・・・?」
「このようなところでうたた寝されていては、風邪を召しますよ。」
瞼をあけると前には茅島が心配そうにしながらしゃがんでこちらを見ている。
目をこすりながらりんは凭れていた柱から身を起こした。
「何だか気持ちよくて・・・」
立ち上がろうと膝を立てたとき、その体がぐらついて倒れそうになった。
「りんさま!」
咄嗟にその崩れた体を支えた茅島がハッとして恐る恐るりんの顔を覗きこむ。
「ごめんなさい、ちょっと立ちくらみがして、長く座っていたからかな。大丈夫です。」
そう言ってりんは笑んでかえした。
「りんさま、少し熱があるのではありませんか?」
そう問うたのは支えた体が火照っているように感じたからだ。
「え?そう?」
茅島はりんの額に手を当てる。
「やはり熱がありますよ、小春日和とはいえ、まだ冷える気候でございます。今日はこのままお休みになってくださいませ。」
「だけど・・・」
「もし本格的な風邪になりましたら、皆さまとても心配なさりますよ。今のうちに休んでしまえば明日にはよくなっています。きっと。」
「でも、多分今日は殺生丸様来ると思うから・・・起きて待っていたいの。」
純朴なその言葉に茅島は微笑を浮かべた。
「では、主上が参られましたらお起こしいたしますから。」
優しくそういわれると、りんはそれ以上の言葉が無く頷くしかなかった。
「わかりました・・・でも、子供たちの夕餉の支度が・・・」
「りんさま、そうそう急かなくともよろしいですよ。今晩は私がやりますから。風邪を今日中に治すことだけ考えてくださいませ。」
茅島はまだ休む気になりきれていないりんを養生させるように説得するのはいつも時間がかかってしまう。
「お願いいたします。若様たちにはあまり心配無いように伝えますので。」
廊下を進みながらそう諭し、寝台の上に腰をおろしてため息をついたりんはやっとそれに頷いた。
茅島は床に就いたことを確認すると、そっと部屋を去り厨場へと向かい、夕餉の支度に取りかかるが、それに身が入らない。気にし過ぎだと自分自身に言い聞かせるが、一度よぎった不安はそれをかわきりにしてどんどん大きくなっていく。
そう、りんの病魔が再びその牙を剥きだしたのではないかという不安が。
早めの食事と薬をとったりんは薬効のおかげで昏々と眠りについた。母親のそれに少し不服そうにしていた子供たちだったが、茅島に諭されながら夕餉を済ませた頃にはその気分も治っていた。
揃って湯あみをさせて寝間着に着替えさせ、なかなか寝付いてくれない子供たちを寝かせる。
そうした一連の仕事を終えると茅島もどっと疲れが出た。
表で一息つこうと足を踏石に降ろしたとき、殺生丸がやってきた。
「主上・・」
二振りの剣を佩いたままここへやってくるのはあまりないのだが、この日は天生牙も爆砕牙もどちらも佩いていた。
茅島は急いで頭を下げて引いた。
「今宵は随分と静かだな。何かあったのか。」
面をあげると、茅島はその口を開く。
「りんさまが少し風邪気味でしたので、今日は早く休んでいただきました。若君たちはいつもと同じでございます。少し早いかもしれませんが、今日はお休みになっていただきました。」
「そうか。」
しばしの沈黙が落ちた。
「そうでした、りんさま今宵はきっと主上が来られるからと、楽しみにしておられて、私が無理に休ませてしまったので、お声掛けして参ります。」
そういって茅島は立ち上がるとりんの寝室へと足を向けた。
「私が行く。」
後ろ目に殺生丸がそう言うと、茅島は分かり切ったように微笑した。
「では、私は白湯の準備でもしております。入用でしたらおよびくださいませ。」
殺生丸は厨場へと去る茅島を見遣ってからその歩を進めた。
音をたてないように障子を開けると寝台でりんが寝息を立てていた。
起こさないように傍まで歩み寄ったところでりんが身じろぎをした。
「!」
自分が来たことを察したのか、りんはゆっくりとその目をあける。
「・・・殺生丸様・・・?」
朧気に呟くと、りんは現であることに気がついて慌てて寝台から起き上がった。
寝台から降りようとするりんを止めて、横に置いてある椅子に腰を下ろす。
「調子はどうだ。」
「なんともないの。外で日向ぼっこしてたらうっかり寝やっていて、それを茅島さんに見つかっちゃってね、
熱っぽいから、養生して下さいって言われただけで・・・」
明るく早口で話すりんの額に掌をのせた。
「熱はあるな・・・」
やんわりと出されたその言葉にりんは苦笑する。
「ちゃんと休むから、心配し過ぎないで。」
そう返されて殺生丸はそれ以上何も言わなかった。
「ねぇ、殺生丸様。」
「何だ。」
「今日ね、庭に出ていたらね、蕗の薹が頭を出していたの。まだまだ小さいんだけれど・・・・」
「・・・・」
「桜が咲く季節になったら、いつかみたいに皆で桜のお屋敷にお花見に行きたいですね。」
ゆらゆらと灯台に揺らめく橙色の灯が、満面の笑みをうかべたりんを眩く引きたてた。
「造作も無いことだ。それほどのことなど。」
半分ため息をつくように殺生丸は視線をあさっての方に向けた。
「そういうとおもった。」
りんはくすくすと笑う。
暫く、他愛ない話をして時を過ごした。といってもりんがほとんど話し手で殺生丸は聞き手となっているのだが。
「りん。」
改まった様子で名を呼ばれて、りんはきょとんとした。
佩いていた二振りの刀のうちの一振りをりんに手渡す。
「ひと月、城をあける。これを持っていろ。」
手渡された刀は天生牙だ。
両の手で受け取った天生牙を抱きしめるようにりんはその腕におさめた。
「今度は、どこに行くの?」
「北の方だ。」
りんの表情に不安が過る。
「・・・闘うの・・・?」
「そうならずに済むように私が行く。」
「・・・・・」
「案ずるな。爆砕牙を抜くことはない。」
きっぱりと迷いなく言い放たれたその言葉に、りんは安堵をおぼえる。
「次に会えるのは、桜が咲き始める頃だね。」
りんは天生牙をぎゅっと握り頬をよせた。
「そうだ。」
淡々とした一言だけをかえす。
「お花見楽しみにしてるね。絶対に元気でいるから・・・りんのことあんまり心配しなくて、大丈夫だからね。」
天生牙を膝の上に置き、ゆっくり息を吐いて、まっすぐに殺生丸を見つめながらりんはそう穏やかな口調で言った。
金色の双眸がしばしそんなりんを静かに見遣る。
「わかった。表でのうたた寝は、あまりするな。」
どうしたって案じてしまう殺生丸のそれに、りんは多くを言わず大きく頷くだけにとどまった。
睦まじく、温かな時間は過ぎて、りんが再び眠りに就き夜明け前に殺生丸はここを後にした。
そうして、ひと月が過ぎ、約束通りに雪蓉の実家である桜屋敷で皆が集って花見を催した。
犬夜叉、かごめ、弥勒、珊瑚、七宝、琥珀、雲母・・・そして彼らの家族。りんと殺生丸とその子供たち、
屋敷の主である雪蓉たちももちろんそこにいた。
薄桃色の花弁と、まだ淡い青空が織りなす錦のような見事な風景と、その日の為に用意した料理や酒に舌鼓を打ち、話にも華を咲かせた。
とてもとても、言い表すには難儀なほどに良き日だった。
だが、花を散らせるように雨が降るのと同じようにして、りんの容態はそれから間もなく悪化した。
皐月に入った時には咳と一緒に血痰がよく混じるようになっていた。
そして、梅雨を前にした今、りんの寝台の傍らには天生牙が置かれている。
蕗の薹が頭を出した春の始まりの日、りんに手渡された天生牙。
それ以来、殺生丸の腰に佩かれることはなく、唯ずっとりんの傍に何も言わずにそこにある。
<続く>
気がつけば10日も更新していなかった・・・・アワワワ;(-_-;)
「紅に眠る 12」
気になる方はどうぞ!
「紅に眠る 12」
初日の出を拝み、
雪源と蒼天のまぶしさに目を細め、
はしゃぎまわる子供たちに安堵し、
吐いたその息の白さと、風の冷たさが頬を紅くした。
梅の花の香りに来たる春を想い
咲いた桜の薄桃色の花弁の雨にまどろみ、
慈雨が誘う濃緑の薫風が夏を報せ、
濃紺の闇に漂う靄に、蛍の灯が尾をひいた。
紺碧の空にそびえるように入道雲がのぼり、蝉の音が耳に沁みるようだった。
いつしかその空には蜻蛉が舞い、
その色が茜に染まった。
地上が黄金の野原に姿を変え、
指先が悴みだすと、緋と紅、茜の絢爛なまでに色づいた木々たちは一斉にその衣を脱ぎ捨てていった。
眠ったように景色が静かになり、火鉢に起こしている炭が赤々と目立つ季節がこの年も巡ってきた。
「丹」を飲んでから一年以上が過ぎた。
りんは病を患っていることを思わず忘れてしまうくらい、かつてと同じように元気に過ごしていた。
罹り始めだったあの頃、母親と雪蓉と父である殺生丸の間の空気が重くなったことに表に出さずとも戸惑いがあった子供たちは、もうすっかりそのことが気にかからなくなっていた。
彼らは雪蓉が度々言う「城の中が騒がしい」という言葉のせいだろうと、そう思って疑わなくなっていた。
二日に一度は必ずこの家へ訪れる父親と言葉を交わすことを楽しみにしている。
りんもそうだ。たとえ短い時間でも起きているときに会えるのはとても嬉しかった。
りんを含め周りの者たちすべてが毎日が当り前に戻っていて、それを疑うことを忘れた頃だった。
小春日和のある午すぎ、
「りんさま、りんさま・・・」
りんは揺り起こされて初めてうたた寝していたことに気がついた。
「茅島さん・・・?」
「このようなところでうたた寝されていては、風邪を召しますよ。」
瞼をあけると前には茅島が心配そうにしながらしゃがんでこちらを見ている。
目をこすりながらりんは凭れていた柱から身を起こした。
「何だか気持ちよくて・・・」
立ち上がろうと膝を立てたとき、その体がぐらついて倒れそうになった。
「りんさま!」
咄嗟にその崩れた体を支えた茅島がハッとして恐る恐るりんの顔を覗きこむ。
「ごめんなさい、ちょっと立ちくらみがして、長く座っていたからかな。大丈夫です。」
そう言ってりんは笑んでかえした。
「りんさま、少し熱があるのではありませんか?」
そう問うたのは支えた体が火照っているように感じたからだ。
「え?そう?」
茅島はりんの額に手を当てる。
「やはり熱がありますよ、小春日和とはいえ、まだ冷える気候でございます。今日はこのままお休みになってくださいませ。」
「だけど・・・」
「もし本格的な風邪になりましたら、皆さまとても心配なさりますよ。今のうちに休んでしまえば明日にはよくなっています。きっと。」
「でも、多分今日は殺生丸様来ると思うから・・・起きて待っていたいの。」
純朴なその言葉に茅島は微笑を浮かべた。
「では、主上が参られましたらお起こしいたしますから。」
優しくそういわれると、りんはそれ以上の言葉が無く頷くしかなかった。
「わかりました・・・でも、子供たちの夕餉の支度が・・・」
「りんさま、そうそう急かなくともよろしいですよ。今晩は私がやりますから。風邪を今日中に治すことだけ考えてくださいませ。」
茅島はまだ休む気になりきれていないりんを養生させるように説得するのはいつも時間がかかってしまう。
「お願いいたします。若様たちにはあまり心配無いように伝えますので。」
廊下を進みながらそう諭し、寝台の上に腰をおろしてため息をついたりんはやっとそれに頷いた。
茅島は床に就いたことを確認すると、そっと部屋を去り厨場へと向かい、夕餉の支度に取りかかるが、それに身が入らない。気にし過ぎだと自分自身に言い聞かせるが、一度よぎった不安はそれをかわきりにしてどんどん大きくなっていく。
そう、りんの病魔が再びその牙を剥きだしたのではないかという不安が。
早めの食事と薬をとったりんは薬効のおかげで昏々と眠りについた。母親のそれに少し不服そうにしていた子供たちだったが、茅島に諭されながら夕餉を済ませた頃にはその気分も治っていた。
揃って湯あみをさせて寝間着に着替えさせ、なかなか寝付いてくれない子供たちを寝かせる。
そうした一連の仕事を終えると茅島もどっと疲れが出た。
表で一息つこうと足を踏石に降ろしたとき、殺生丸がやってきた。
「主上・・」
二振りの剣を佩いたままここへやってくるのはあまりないのだが、この日は天生牙も爆砕牙もどちらも佩いていた。
茅島は急いで頭を下げて引いた。
「今宵は随分と静かだな。何かあったのか。」
面をあげると、茅島はその口を開く。
「りんさまが少し風邪気味でしたので、今日は早く休んでいただきました。若君たちはいつもと同じでございます。少し早いかもしれませんが、今日はお休みになっていただきました。」
「そうか。」
しばしの沈黙が落ちた。
「そうでした、りんさま今宵はきっと主上が来られるからと、楽しみにしておられて、私が無理に休ませてしまったので、お声掛けして参ります。」
そういって茅島は立ち上がるとりんの寝室へと足を向けた。
「私が行く。」
後ろ目に殺生丸がそう言うと、茅島は分かり切ったように微笑した。
「では、私は白湯の準備でもしております。入用でしたらおよびくださいませ。」
殺生丸は厨場へと去る茅島を見遣ってからその歩を進めた。
音をたてないように障子を開けると寝台でりんが寝息を立てていた。
起こさないように傍まで歩み寄ったところでりんが身じろぎをした。
「!」
自分が来たことを察したのか、りんはゆっくりとその目をあける。
「・・・殺生丸様・・・?」
朧気に呟くと、りんは現であることに気がついて慌てて寝台から起き上がった。
寝台から降りようとするりんを止めて、横に置いてある椅子に腰を下ろす。
「調子はどうだ。」
「なんともないの。外で日向ぼっこしてたらうっかり寝やっていて、それを茅島さんに見つかっちゃってね、
熱っぽいから、養生して下さいって言われただけで・・・」
明るく早口で話すりんの額に掌をのせた。
「熱はあるな・・・」
やんわりと出されたその言葉にりんは苦笑する。
「ちゃんと休むから、心配し過ぎないで。」
そう返されて殺生丸はそれ以上何も言わなかった。
「ねぇ、殺生丸様。」
「何だ。」
「今日ね、庭に出ていたらね、蕗の薹が頭を出していたの。まだまだ小さいんだけれど・・・・」
「・・・・」
「桜が咲く季節になったら、いつかみたいに皆で桜のお屋敷にお花見に行きたいですね。」
ゆらゆらと灯台に揺らめく橙色の灯が、満面の笑みをうかべたりんを眩く引きたてた。
「造作も無いことだ。それほどのことなど。」
半分ため息をつくように殺生丸は視線をあさっての方に向けた。
「そういうとおもった。」
りんはくすくすと笑う。
暫く、他愛ない話をして時を過ごした。といってもりんがほとんど話し手で殺生丸は聞き手となっているのだが。
「りん。」
改まった様子で名を呼ばれて、りんはきょとんとした。
佩いていた二振りの刀のうちの一振りをりんに手渡す。
「ひと月、城をあける。これを持っていろ。」
手渡された刀は天生牙だ。
両の手で受け取った天生牙を抱きしめるようにりんはその腕におさめた。
「今度は、どこに行くの?」
「北の方だ。」
りんの表情に不安が過る。
「・・・闘うの・・・?」
「そうならずに済むように私が行く。」
「・・・・・」
「案ずるな。爆砕牙を抜くことはない。」
きっぱりと迷いなく言い放たれたその言葉に、りんは安堵をおぼえる。
「次に会えるのは、桜が咲き始める頃だね。」
りんは天生牙をぎゅっと握り頬をよせた。
「そうだ。」
淡々とした一言だけをかえす。
「お花見楽しみにしてるね。絶対に元気でいるから・・・りんのことあんまり心配しなくて、大丈夫だからね。」
天生牙を膝の上に置き、ゆっくり息を吐いて、まっすぐに殺生丸を見つめながらりんはそう穏やかな口調で言った。
金色の双眸がしばしそんなりんを静かに見遣る。
「わかった。表でのうたた寝は、あまりするな。」
どうしたって案じてしまう殺生丸のそれに、りんは多くを言わず大きく頷くだけにとどまった。
睦まじく、温かな時間は過ぎて、りんが再び眠りに就き夜明け前に殺生丸はここを後にした。
そうして、ひと月が過ぎ、約束通りに雪蓉の実家である桜屋敷で皆が集って花見を催した。
犬夜叉、かごめ、弥勒、珊瑚、七宝、琥珀、雲母・・・そして彼らの家族。りんと殺生丸とその子供たち、
屋敷の主である雪蓉たちももちろんそこにいた。
薄桃色の花弁と、まだ淡い青空が織りなす錦のような見事な風景と、その日の為に用意した料理や酒に舌鼓を打ち、話にも華を咲かせた。
とてもとても、言い表すには難儀なほどに良き日だった。
だが、花を散らせるように雨が降るのと同じようにして、りんの容態はそれから間もなく悪化した。
皐月に入った時には咳と一緒に血痰がよく混じるようになっていた。
そして、梅雨を前にした今、りんの寝台の傍らには天生牙が置かれている。
蕗の薹が頭を出した春の始まりの日、りんに手渡された天生牙。
それ以来、殺生丸の腰に佩かれることはなく、唯ずっとりんの傍に何も言わずにそこにある。
<続く>
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